2022/06/05
歯みがきのとき、ときどき歯ぐきから血が出る。
朝起きると、口の中がなんだかネバネバする。家族に、口のにおいを指摘されたこともある。
でも、痛みはないし、毎日歯もみがいている。「疲れているだけかな」――そう思って、そのままにしていませんか。
もし、そうお感じなら。歯ぐきの中で、歯周病の原因菌が静かに増えはじめているかもしれません。歯周病は、痛みが出にくいまま進む病気です。
この記事では、歯周病を引き起こす細菌のなかでも、特に悪玉として知られる「レッドコンプレックス」について、その正体と、菌に負けない口の環境のつくり方をお伝えします。
この記事でわかること
- 歯周病が「歯を失う原因の第1位」といわれる理由
- 歯周病の原因菌「レッドコンプレックス」3種類の特徴
- むし歯菌と歯周病菌の違い
- 原因菌を増やさないために、ご自宅と歯科医院でできること
1. 歯周病は、歯を失う原因の第1位です
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間にたまった細菌によって歯ぐきに炎症が起き、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていく病気です。
大人の2人に1人に、そのサインがあります
厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査」では、15歳以上の約半数(47.9%)に、歯周病のサインである4mm以上の歯周ポケットが見られました。年齢とともに割合は高くなり、65〜74歳では56.2%にのぼります。15〜24歳でも約2割に見られ、決して年配の方だけの病気ではありません。
むし歯よりも、多くの歯を奪っています
8020推進財団の調査(2018年)によると、永久歯を抜く原因の第1位は歯周病(37.1%)で、むし歯(29.2%)を上回っています。
参考:8020推進財団「第2回 永久歯の抜歯原因調査 報告書」
歯周病は、痛みなどの自覚症状が少ないまま進みます。「気づいたときには歯がぐらぐらしていた」ということも少なくありません。
2. 歯周病の原因は「プラーク(歯垢)」の中の細菌です
お口の中には、数百種類もの細菌がすんでいます。その多くは、悪さをしない菌です。
ところが、歯みがきで落としきれなかった汚れが歯と歯ぐきの境目にたまると、細菌が集まってネバネバした膜をつくります。これがプラーク(歯垢)で、専門的には「バイオフィルム」と呼ばれます。
プラークが歯ぐきの中(歯周ポケット)にまで入り込むと、酸素が少ない環境を好む、たちの悪い菌が増えはじめます。その代表が、次にご紹介する「レッドコンプレックス」です。
むし歯菌と歯周病菌は、別の菌です
よく耳にする「ミュータンス菌(ミュータンスレンサ球菌)」は、むし歯の原因菌です。糖分から酸をつくり、歯を溶かします。一方、歯周病の原因菌は、主に歯ぐきの中で増え、歯ぐきや骨を壊していきます。同じお口の中の細菌でも、すむ場所も、引き起こす病気も異なります。
| むし歯菌 | 歯周病菌 | |
|---|---|---|
| 代表的な菌 | ミュータンス菌など | レッドコンプレックスなど |
| すむ場所 | 歯の表面・溝 | 歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット) |
| 好む環境 | 糖分が多い | 酸素が少ない |
| 起こること | 歯が溶けて穴があく | 歯ぐきが腫れ、歯を支える骨が溶ける |
3. 歯周病の「御三家」――レッドコンプレックスとは
レッドコンプレックスとは、歯周病の進行に特に深く関わる3種類の細菌のグループです。1998年に米国の研究者ソクランスキーらが、歯周病菌を性質ごとに色分けして分類した際、もっとも病原性が高いグループを「赤」としたことから、この名前がつきました。
3つの菌はいずれも、酸素を嫌う「嫌気性菌(けんきせいきん)」です。歯周ポケットが深くなり、酸素が届きにくくなるほど、活発に増えていきます。
① ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g.菌)
レッドコンプレックスの中心的な存在で、歯周病菌のなかでもっともよく知られている菌です。顕微鏡で見ると小さく丸い形をしていますが、血液を含む培地で育てると、真っ黒な集団(コロニー)をつくります。
P.g.菌は、「ジンジパイン」というたんぱく質を分解する酵素を出し、歯ぐきの組織を壊していきます。また、血液中の成分を栄養にして増えるため、歯ぐきから出血が続くと、さらに増えやすくなるという悪循環を生みます。
② トレポネーマ・デンティコーラ(T.d.菌)
らせん状の形をした菌で、体をくねらせて活発に動き回ります。その動きで歯ぐきの組織の奥へ入り込み、炎症を広げていきます。
また、P.g.菌などほかの歯周病菌とくっつき合い、協力して病原性を高める性質があります。単独よりも、仲間と一緒になることで、より厄介な存在になる菌です。
③ タンネレラ・フォーサイシア(T.f.菌)
細長い棒のような形をした菌です。空気(酸素)に触れると生きられないほど弱い菌ですが、酸素の届かない歯周ポケットの奥では、組織を壊す酵素や毒素を出し続けます。
深い歯周ポケットから見つかりやすく、歯周病の進行や、治療後の再発とも関わりがあるといわれています。
レッドコンプレックスは、ある日突然増えるわけではありません。プラークがたまり、歯ぐきの炎症が続くことで、少しずつすみやすい環境ができていきます。
4. 歯周病菌の影響は、お口の中だけにとどまりません
歯周病で炎症を起こした歯ぐきからは、細菌や、炎症によって生じた物質が血管を通じて全身に運ばれることがあります。
特に糖尿病とは関係が深く、「歯周病があると血糖値のコントロールが難しくなり、糖尿病があると歯周病が悪化しやすい」という、互いに影響し合う関係が知られています。このほか、心臓や血管の病気、誤嚥性肺炎、早産・低体重児出産などとの関連も指摘されています。
歯周病の予防は、お口の健康だけでなく、全身の健康を守ることにもつながります。
5. 原因菌を増やさないためにできること
お口の中の細菌を、ゼロにすることはできません。大切なのは、悪玉菌が増えにくい環境を保ち続けることです。
ご自宅で:プラークを「毎日こわす」
プラーク(バイオフィルム)は、うがいや洗口液だけでは落としきれません。歯ブラシなどで物理的にこすり落とすことが基本です。
- 歯と歯ぐきの境目に、毛先を当てて小刻みに動かす
- 歯ブラシだけでは届かない歯と歯のあいだは、デンタルフロスや歯間ブラシで清掃する
- 寝ている間は唾液が減って菌が増えやすいため、寝る前の歯みがきを特にていねいに
歯科医院で:自分では落とせない汚れを取り除く
プラークが固まってできた歯石は、歯みがきでは取れません。歯石の表面はザラザラしていて、さらにプラークがつきやすくなります。歯周ポケットの奥の歯石や汚れは、歯科医院での専門的なクリーニングで取り除く必要があります。
当院では、超音波スケーラーや手用の器具を使って、歯や歯ぐきにやさしく、ていねいに歯石を取り除きます。また、超音波やエアフロー機器を使ったクリーニング(PMTC)で、細部の汚れまで清掃します。
生活習慣:歯ぐきの抵抗力を保つ
喫煙は、歯ぐきの血流を悪くし、歯周病を悪化させる大きな要因です。また、糖尿病、睡眠不足やストレス、歯ぎしり・食いしばりも、歯周病を進めやすくします。お口のケアとあわせて、生活習慣を見直すことも大切です。
当院の歯周病治療については、詳細はこちら:歯周病、クリーニングについては予防診療をご覧ください。
6. こんな症状はありませんか? 歯周病セルフチェック
次のような症状がひとつでもあれば、歯周病が始まっているかもしれません。
- 歯みがきのときに、歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが赤く腫れている、むずがゆい
- 朝起きたとき、口の中がネバネバする
- 口のにおいが気になる、指摘されたことがある
- 歯と歯のあいだに食べ物がはさまりやすくなった
- 歯ぐきが下がって、歯が長くなったように見える
- 歯がぐらぐらする、かみ合わせが変わった気がする
歯周病は、早い段階であれば、歯ぐきの炎症を落ち着かせることが期待できます。症状が軽いうちに、一度ご相談ください。
よくあるご質問
Q1. 歯周病は、人にうつりますか?
A. 歯周病菌は、唾液を通じて家族のあいだで受け渡されることがあります。ただし、菌が入っただけで必ず歯周病になるわけではありません。毎日のケアと定期的なクリーニングで、菌が増えにくい環境を保つことが大切です。
Q2. 痛みがないのに、治療が必要ですか?
A. 歯周病は、かなり進行するまで痛みが出にくい病気です。痛みがないことは、安心材料にはなりません。歯ぐきからの出血や腫れがある場合は、早めの受診をおすすめします。
Q3. 歯石は、どのくらいの間隔で取ればいいですか?
A. お口の状態によって異なりますが、一般的には3〜6か月に一度の定期検診をおすすめしています。歯周病の治療中や、歯石がつきやすい方は、より短い間隔をご提案することもあります。
Q4. 洗口液(マウスウォッシュ)だけで予防できますか?
A. 洗口液は補助的には役立ちますが、歯にこびりついたプラーク(バイオフィルム)は、歯ブラシやフロスでこすり落とさないと除去できません。歯みがきの代わりではなく、あくまで補助としてお使いください。
Q5. 歯周病の検査や治療は、保険でできますか?
A. 歯周病の検査や、歯石除去などの基本的な治療は、健康保険の対象です。保険適用外の処置が必要な場合は、事前にご説明します。料金については、詳細はこちら:料金表をご覧ください。
7. 歯ぐきのサインを、見過ごさないために
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
歯周病の原因菌、レッドコンプレックス。その名前は少し怖く聞こえるかもしれません。けれど、彼らが増えるのは、プラークがたまり、炎症が続く環境があってこそです。言いかえれば、環境を整えれば、増えにくくすることができます。
毎日のていねいな歯みがきと、歯科医院での定期的なクリーニング。この2つを続けることが、歯周病菌に負けないお口をつくる、いちばんの近道です。
歯ぐきからの出血は、お口からの小さなサインです。「たいしたことない」と思わずに、一度、歯ぐきの状態を確かめてみませんか。
名古屋市守山区志段味の鈴木歯科医院では、歯周病の検査・治療から、治療後のメンテナンスまで、お一人おひとりのお口の状態に合わせてサポートしています。
ご予約は、詳細はこちら:ネット予約から、またはお電話(052-736-4088)にて承っております。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療方針を示すものではありません。症状や必要な治療には個人差があります。実際の治療にあたっては、歯科医師の診察をお受けください。

執筆者・監修者のプロフィールを詳しく見る
院長・歯科医師
鈴木 明(すずき あきら)
愛知学院大学歯学部卒業後、同大学第一口腔外科学講座に入局。大学病院で口腔外科を研修し、名古屋大学医学部での麻酔科研修の後、公立陶生病院歯科口腔外科での勤務を経て、平成3年に鈴木歯科医院を開設しました。
開院以来、地域の皆さまの一般歯科診療に携わり、口腔外科・インプラント治療を中心に研鑽を重ねています。お口全体の健康を見据えた治療を大切にしています。
現在も愛知学院大学歯学部冠橋義歯・口腔インプラント学講座に所属し、臨床に加えて研究・教育にも取り組んでいます。
主な経歴
- 愛知県立千種高校 卒業
- 愛知学院大学歯学部 卒業
- 愛知学院大学歯学部 第一口腔外科学講座 入局
- 愛知学院大学歯学部 第一口腔外科学講座 専攻生
- 名古屋大学医学部 麻酔科研修
- 公立陶生病院 歯科口腔外科医長
- 平成3年 鈴木歯科医院 開設
- 愛知学院大学歯学部 高齢者歯科学講座 研究生
- 愛知学院大学歯学部 冠橋義歯・口腔インプラント学講座 非常勤講師
所属学会
- 日本口腔インプラント学会 会員
- 日本成人矯正歯科学会 会員
- 日本歯科放射線学会 会員
- 日本矯正歯科学会 会員